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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1110号 判決 1980年10月27日

控訴人

X

右代表者清算人

原田昭治郎

右訴訟代理人

中村次郎

被控訴人

Y

右代表者

青木玲二

右訴訟代理人

篠田暉三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

控訴費用(当審における予備請求に関する費用を含む。)は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一<証拠>によれば、請求原因一の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、Xは債務者Aに対し昭和五一年一二月一一日当時一九四二万六八五四円の債権を有していたものといわなければならない。

二次にAが被控訴会社代表取締役青木玲二個人に対して債務を負担していたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば昭和五二年九月二五日当時における債務額は六〇〇万円であつたことが認められ、また、<証拠>を総合すれば右時点においてAはYに対しても株式会社マルミ建設を主債務者とする保証債務を負担し、その額は三〇〇〇万円であつたことが認められ、右各認定に反する証拠はない。

三<証拠>を総合すると、Aが代表取締役を勤める訴外株式会社マルミ建設が昭和五二年二月一五日頃銀行取引停止処分を受けて支払不能に陥るとともにAもまた支払不能の状態に陥つたが、当時のAの資産は本件各不動産のみで他に資産のなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

四しかるところ、<証拠>により真正に成立したものと認められる<証拠>によると、昭和五二年九月二五日頃AはB会社に対し同社が右訴外人に代つて第三者に支払う工事代金等の担保として本件各不動産の所有権をB会社に移転し、同日B会社はYに対しYがB会社に貸付ける一〇〇〇万円の担保として本件各不動産の所有権を被控訴人に移転したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、YがAより別紙第一物件目録<省略>(二)及び(四)記載の不動産につき横浜地方法務局小田原支局昭和五二年九月二六日受付第一六二四一号をもつて同年同月一七日売買を原因とする所有権移転登記を経由し、同目録(一)及び(三)記載の不動産につき同支局昭和五二年一〇月一二日受付第一七二三九号をもつて同年同月六日売買を原因とする所有権移転登記を経由していることは当事者間に争いがない。

右のとおりであつて、本件各不動産の所有権は、AよりB会社へ次いで同社よりYへと順次移転したものであつて、AよりYに対する本件各不動産についての所有権移転登記は中間省略登記というべきであるから、AよりYに対し直接に所有権移転がなされたことを前提とし、その取消を求めるXの原審以来の主位的請求は、既に取消の対象の点において失当というほかはない。しかしながら、Xの当審における予備的請求はAよりB会社への本件各不動産の所有権移転の取消を求めるものであり、取消の対象の点では誤りがないので、以下右所有権移転が詐害行為に該当するか否かについて検討する。

五<証拠>を総合すると、以下の事実が認められ、<る>。即ち、

1 本件各不動産のうち原判決別紙第一物件目録(一)ないし(三)記載の各土地は、地続きの一画の土地であるところ、Aは、その地上に建売住宅を建てて分譲することを企画し、そのうち一棟(同目録(四)記載の建物)だけは建築に取り掛つていたが、前記三認定のように代表取締役として自ら経営する株式会社マルミ建設とともに同人個人も倒産した後の昭和五二年九月頃には、右一棟の建物を建築途中で放置していたこと、そのうえ右各土地は公道に面していなかつたため、本件各不動産は、そのままでは決して売り出しうる状態ではなかつたこと。

2  その頃、右(一)ないし(三)の各土地については、(1)Yのための債権額三〇〇〇万円(2)訴外勝俣工三のための債権額四〇〇〇万円の各抵当権(ただし、(2)はマルミ建設を債務者とする物上保証)が設定されていたので、右各土地が競売に付されるならばその現況が右1のような状態であつたところから、抵当債権額に到底及ばない低い価額で競落されるものと予想されたこと、もつとも、右各抵当権については原判決別紙第三物件目録記載の各土地の全部又は一部がそれぞれ共同担保に供せられていたものの、それでもなお抵当債務を完済させる見込はなかつたこと。

3  そこで、Aは、競売手続外で本件各不動産をできるだけ高価に売却して弁済資金を取得し、もつて抵当債務額を減らそうと考え、昭和五二年九月中旬頃債権者である訴外青木玲二、Yの真鶴支店長、同勝俣工三及び兄の市川喜一郎らと協議した結果、次の計画を立案実施することに合意したこと。

イ  Aは、建築中の前記一棟の建物を完成するほか、その余の部分にさらに建売住宅を建築し、かつ公道に通ずる道路を取得したうえ、土地付建売住宅としてできるだけ高額に分譲する。

ロ  Aには資力がないため、右工事代金等は、訴外青木らが新会社を設立したうえ新会社において支弁することとし、新会社は、同社が支払う工事代金等の担保として本件各不動産の所有権を取得する。

ハ  右新会社は、その支弁した右工事代金等がAから償還されないときは、自ら右イの分譲を行いその売得金より支弁額を回収することができる。

ニ  Yは、右新会社に対し右工事代金等に充てるため一〇〇〇万円を貸付け、その担保として新会社から本件不動産の譲渡を受け、右貸付金が返済されないときは本件各不動産分譲の売得金よりこれを回収することができる。

4 右合意に係る約旨に従つて、訴外青木、同勝俣、同市川喜一郎らは昭和五二年九月二二日B会社を設立し、Yは工事代金等に充てる費用として一〇〇〇万円をB会社に貸し付け、前記四で認定したとおり、AよりB会社が次いで同社よりYが本件各不動産の所有権を取得し、中間省略の方法により被控訴人が右Aより所有権移転登記を経由したこと。

5  そして、B会社は、Aのため建物工事代金、道路工事代金等一四五六万三一八五円を支弁し、建築中の一棟の完成・他の一棟の建築等に取り掛り、また訴外勝俣は他の不動産との共同抵当に係る本件各不動産中の前記(一)ないし(三)の各土地についての抵当登記を抹消し、右約旨は着々実行に移されていたところ、昭和五二年一二月八日控訴人から本訴提起に先立つ処分禁止仮処分の執行を受けたため、右約旨は結局実現するに至らなかつたこと。

以上の事実を認めることができる。

六右認定事実によれば、Aは、B会社に対し、工事代金等の立替支弁を依頼し、これにより新たに負担すべき債務を担保するため本件各不動産を譲渡し、B会社は右支弁すべき工事代金等をYより借り受け、その担保として本件各不動産をYに譲渡したことが明らかである。これらはいずれも譲渡担保に該当するものであるところ、まず、AよりB会社への譲渡が詐害行為になるかどうかであるが、右Aが工事代金等の立替支弁をB会社に依頼したのは、当時の現況のままでは到底売りに出しうる状態でなかつた本件各不動産に工事を施し、ほかにも建物を建築する等して土地付建売住宅として完成のうえ分譲し、その売得金をもつて抵当債務額を減少させるためであり、その工事代金等の支弁を依頼したものであることは右に認定したとおりである。そしてこの計画に従つて分譲するときは、右工事代金等を控除しても、本件各不動産が、そのままの状態で競売されるよりも有利に処分しうるものであることはいうまでもなく、また他に共同担保物件があるとはいうものの、右認定のようにそれでもなお抵当債務を完済させる見込がないのであるから、右計画は、競売の場合に比しより多くの抵当債務の減少をもたらしうるものといわなければならない。しかして、右計画に従つて現に工事が進められ一部抵当登記も抹消されたが、Xの処分禁止仮処分に遭つたため実現しなかつたことは右認定のとおりである以上、右計画は単なる机上の空論ではなかつたものというべきである。

これを要するに、右計画は、抵当不動産に工事を施す等して競売手続外で高額に売却し、もつて当該抵当債務の減少をもたらそうとしたものであり、そのために必要な工事代金等に関する新たな債務負担と、これに伴う譲渡担保の設定にほかならず、通常の取引観念上特に不当視すべき事由も見出し難いから、Aが右計画に従つてB会社に対してした本件各不動産の譲渡は、同人の一般債権者を害するものということはできない。もつとも、前認定の約旨によれば、B会社の支弁する工事代金等及びYの貸付ける金員は分譲による売得金より回収し得ることになつているけれども、これらはいずれも右計画を実現させるために必要かつ有益な支出にほかならないから、かかる約旨があるからといつて他の一般債権者を害することにはなりえない。ほかには、以上の認定判断を左右すべき格別の事情は認められない。

以上のとおりAのB会社に対する本件各不動産の譲渡は同人の一般債権者を害すべき詐害行為に該らないから、Xの予備的請求もまた理由がない。

七よつて、Xの主位的請求を棄却した原判決は結局において相当であるから本件控訴を棄却し、Xの当審における予備的請求も棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(川上泉 賀集唱 福井厚士)

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